診断まで ⑤

前回の続き

「きれいな脳と脊髄」という言葉に一度は胸をなでおろしたものの、右手の自由は少しずつ、確実に奪われていきました。

気がつけば、財布から小銭をつまみ出す、机の上の小さなものを持ち上げる、といった何気ない日常生活の動作に、明らかな支障が出始めていたのです。気のせい、ではもう済まされない段階に来ていました。

医師の勧めで、私は紹介された病院へと向かい、筋肉や神経の動きをより詳しく調べる「筋電図・神経伝伝導速度検査」を受けることになりました。

事前の知識も全くなく、「まあ、ちょっとピリピリするくらいの検査だろう」と軽い気持ちで臨んだのですが、これが間違いでした。

待っていたのは、私にとって人生初の「拷問」のような時間だったのです。


【筋電図・神経伝導速度検査とは?】

ここで、私を恐怖に陥れたこの2つの検査について、少しだけ説明しておきます。

どちらも、手足のしびれや筋力低下の原因が、「筋肉」にあるのか、それとも「神経」にあるのかを突き止めるための非常に重要な検査です。


まず行われたのは、筋肉に直接針を刺す「針筋電図」でした。

「チクッとしますよ」という看護師さんの優しい声とは裏腹に、筋肉の奥深くに針がズブズブと刺さっていく感覚。それだけでも痛いのに、「はい、ちょっと力を入れて動かしてみて」と言われます。針が刺さった状態で筋肉を動かすのが、これほど苦痛だとは思いもしませんでした。

あまりの痛さと、そこからくる極度の緊張のせいか、途中で急に吐き気と冷や汗が襲ってきて、気分が悪くなり検査を一時中断してもらう事態に。

後日、もう一つの検査「神経伝導速度検査」でもえらい目に遭いました。
今度は皮膚の上からバチバチと電気を流されます。不快なピリピリ感と、自分の意思とは関係なく手足が跳ね上がる感覚。まさに前半・後半に分かれた容赦のない拷問でした。

それだけの激痛と苦しみに耐え、ようやく出た結果はこうでした。

「神経の伝達速度に関しては異常ありませんね。外科的な問題(頸椎の圧迫など)は考えにくいです」

……あれだけの痛い思いをさせておいて、「異常なし」?

普通なら病気が見つからなくて喜ぶべきなのかもしれませんが、当時の私は激しい落胆に包まれました。じゃあ、この思い通りに動かない右手はいったい何なんだ、と。

それに、医師の言う「外科的ではない」という言葉の意味が、当時の私にはよく分かりませんでした。ただ、整形外科で骨を削れば治るような単純な話ではない、何か「普通ではない恐ろしい病気」が裏で進行しているのではないかという、嫌な予感だけが胸に居座り続けたのを覚えています。

その後、同病院の「神経内科」へと転科することになりました。

診察室で、医師がゴム製のハンマーを取り出し、私の手首や肘、膝の腱をトントンと叩く「腱反射(筋伸張反射)」の検査を行いました。

結果、上肢・下肢ともに、通常よりも反射が激しく返ってくる「筋伸張反射の亢進(こうしん)」が見られるとのことでした。これは、脳や脊髄といった上位の運動神経になんらかの異常が起きているサインです。

「現段階でははっきりとした原因がまだ分かりません。しばらく様子を見ましょう」

原因不明のまま、手渡された結果は「様子見」。
私の右手は、その間にも少しずつ、その機能を失いつつありました。


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