私が指揮をしている楽団の中にお一人、忘れられない恩人.Kさんがいました。
私の病気が診断された1ヶ月ほど後に、Kさんはすい臓がんと診断されました。
ステージ4
東大卒。かつては、ヴァイオリンのトップ:コンサートマスターも務めた方で、パワフルな演奏。的確なアドバイス。皆に慕われ、楽団になくてはならない存在でした。
「あんたの指揮ええわぁ」
楽団で初めて指揮をした時、本当に嬉しかったです。
「いいねぇ!こっちの方が好きやで」
こんなこと出来ますか、とヴァイオリンの弾き方を注文した時の返事。一緒にワクワク音楽を楽しめたことに打ち震えました。
診断後、数ヶ月ぶりに練習に参加されたKさんは、杖をついて、楽器を他の人に出してもらっていました。楽器を構えるのも辛そうでした。
最後
私が指揮をする曲に、何とか一緒に乗りたい。
そう言ってくれていたと、Kさんの告別式で遺族の方から伺いました。
その曲は、私が立って指揮をした最後の曲でした。
演奏が終わったあと、Kさんを探しました。苦しそうに、けれどもどこか満足そうに、楽屋の畳に臥せるその方の手を握り、「ありがとうございました」と言おうとしましたが、声になりませんでした。視界が滲んでよくわかりませんでしたが、その人は笑ってくれたように思います。
私は、ALSという病名を突き付けられた時。町行く人たちを「どうせあんたら、俺より長生きするんだろ」と妬みながら見ていたことがあります。誰も彼も、自分よりも幸せに、健康に、苦しまず生きているんだろう。と。
Kさんと出会わなければ、こんな感情に飲み込まれたままかもしれません。
ALSは確かに辛い病気と思います。出来ることが一つずつなくなっていく。真綿で首を締められていくしんどさは、自分も周りも堪えます。
でも、まだ時間はある。今、私は生きている。
Kさんのおかげで、大切なものに気付けました。
ありがとうございます。Kさん、まだ私は生きています。


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